若人よ、くくれるハラを持て。【国語と決断力】

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「決断」とは?

大学入学共通テストの国語の得点に、「決断力」の強さが影響しているという分析結果は、
私にとって、大変意外なものでした。

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Lukia

「判断力」じゃなくて、
「決断力」なの?って思いました。

「判断」と「決断」って用いられるシチュエーションや行為に似通ったところがありますが、
今回の分析結果で、「判断力」ではなく、わざわざ「決断力」としてあるところからも、
本来指しているものは違うはずです。

そこで、これらのちがいをはっきりさせるため、
国語辞典と、漢和辞典で調べてみました。

「決断」について調べてみた

決断の「決」という字は、水をあらわすさんずいと、えぐりとるという意味のつくりから成り立っています。
ここから、「とりきめる」という意が生まれたそうです。

「決」自体には、さまざまな意味がありますが、その中でも
「きれる」という意味(例:決壊・決裂)
「きめる・さだめる」の意味。きっぱりさだめる、心をきめる、覚悟する、思い切るさま。
という意味が「決断」の「決」の意を表していると考えられます。

「決断」 どちらかにきっぱりときめる。腹をきめる。
『角川新字源 改訂新版』(2018年 角川書店)

とありました。

また、「断」の字には、
「さだめる・きめる・さだまる」の意
「さばく」の意
「わかれる」の意
「思いきってする」の意
「きっと・かならず」の意があります。



【決断】
思いきってはっきりきめること。そのきめたこと。
類義語:決意・裁断
『例解新国語辞典 第九版』(2016年 三省堂)

新字源と例解新国語辞典の両方に「思いきる」という表現が出てきたので、
これについても調べてみました。



【おもいきる】
迷いをすてて、決心する
『例解新国語辞典 第九版』(2016年 三省堂)

「判断」について調べてみた

「判断」の「判」は、
「ふたつに分ける」という意味の「半」と、刀を表す「りっとう」からなっています。

「二つに切り分ける」という意味から、ひいて
「けじめをつける・さばく」の意味が生まれました。
「判」には、
「わかれる・わける」の意
「区別する・見分ける」の意
「はっきりする」の意(例:判明)
「さばく・さだめる・けじめをつける」の意があります。



【判断(する)】
① 考えてはっきりした結論を出すこと。
② うらないなどによって、結論を出すこと。
『例解新国語辞典 第九版』(2016年 三省堂)

判断
① 物事の是非・善悪を区別する。
② 諸概念を結合して、その関係の真偽を見極めること。
『角川新字源 改訂新版』(2018年 角川書店)

 

「決断」は人間固有の行為

「決断」と「判断」をそれぞれ調べてみると、
両者には明確にちがいがあると感じました。

「決断」は、その語義を説明するため、「腹をきめる」とか、「覚悟する」とか「思いきる」などの言葉が用いられています。

一方、「判断」の方は、ものごとを二極化させ、そのどちらであるかをはっきりさせる行為を指していることがわかります。

レモンのライン 「判断」はデータや、考える材料、基準などがあれば、機械にもできます。
いや、むしろ、その精度の高さや処理速度の速さは、人間の比にならない場面も生じるようになってきました。

しかし、「決断」は「人間固有の行為」です。
機械には、「腹(ハラ・肚)」はありません。
「腹」がないので、覚悟もきめられません。
おもいきることもできません。

難しい局面をむかえたとき、リーダーが下すのは、「決断」であり、「判断」ではありません。
「ハラをきめる」という慣用表現がありますが、これは、
「ひるがえさない、二度と元にはかえらないと心に誓うこと」です。

「ほかの人はわからないが、自分はこうする。」
というのが「決断」であり、
唯一無二の「自分」となれる人間だからこそできることなのです。

状況を正しくとらえ、その上で「自分はどうするのか、どうしたいのか」をきめる。

己の決めたことに責任をもち、来る結果を潔く受け入れられる人となることが求められているのです。

「人間らしさ」を死守することが求められている

大量の情報を正しく記憶すること、
求めに応じ瞬時に情報を引き出すこと。
予断や情にほだされず、正しく判断すること。

これらは、もはや人間が機械に勝てる余地はありません。

これからの世代には、
「高いリテラシーを持ち、自発的にものごとに取り組める」素養が求められているように思います。

自分や、自分に関わる人たちの人生について、自ら決め、最善をつくせる人が理想なのでしょう。
この理想は、今に始まったものではありません。
しかし、人間でなければできないとされてきたことの多くが、
機械にとって代わられるようになり、なんなら最近は、その代替のペースが加速しつつあります。

人が生み出したものが、人を脅かすようになってきたことにより、
残された「人間らしさ」を死守しようという機運が高まっているように思います。

レモンのライン

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プロフィール

Author Profile
Lukia_74

元・再受験生、元塾講師、元高校非常勤講師。広島育ち。
中・高国語の教員免許を取得するも、塾講師時代は英語や数学ばかり教えていた。
思うところあって大学再受験を決意。理転し、数学Ⅲ、化学、生物を独習する。国立大学へ合格するも、2018年3月に再受験生生活にピリオドを打つ。
モットーは「自分の予定はキャンセルできても、生徒の予定はキャンセルできない」と「主婦(夫)こそ理系たれ」。
広島のお好み焼きとグレープフルーツが大好き。どっちかというと左党。楽しみはひとりカラオケ。
高校で教鞭を取った経験から、現在は「現代文」と「小論文」の指導力アップを目指し、自己研鑽中。最近は趣味として高校数学を解く。

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Posted by Lukia_74