文選について【元号「令和」の典拠について】
『文選〈もんぜん〉』は6世紀の初め、
梁〈りょう〉の皇太子、
昭明太子蕭統〈しょうめいたいし しょうとう〉が編纂した、
先秦から南北朝時代までの代表的な詩文を集めた60巻からなる選集です。
収録される詩文は800篇近くに及び、
ジャンルによって、
賦〈ふ〉・詩・騒〈そう〉など37種類の文体に分けられます。
中でも賦(韻文の一種)・詩が半数を占め、
詩は五言詩が大部分を占めます。
五言絶句というと、5字/行×4行、つまり20字の詩であり、
五言律詩というと、5字/行×8行、つまり40字の詩を指します。
『文選』には、
『詩経』の序文や、
『楚辞』の「離騒〈りそう〉」、
曹操・曹植父子の詩文、
諸葛亮の「出師の表〈すいしのひょう〉」、
陶淵明の詩文などが収められています。
「文選」のような美文集が生まれたのは、
文学が個人の心の叫びを発する手段として人々に意識され始めたという時代背景があります。
37種類もの文体があるということは、
個人の発する思いが多岐にわたったともいえるでしょう。
これを受けて、南朝では、
文学についての理論書も著されるようになり、
文学そのものを体系的に考えようという気風が高まっていきました。
人々の文学に対する意識が変わりつつある中で編まれた「文選」は、
昭明太子蕭統の高い鑑識眼によって選定された美文集であったので、
後世の詩人に大きな影響を与えました。
また、唐代以降は、科挙で詩文の教養が重視されたので、
受験生必読の書ともなったのです。
『文選』には漢の武帝の歌とされる「秋風の辞」のように、
時の移ろいや老いに対する悲しみを詠んだ歌が多く収録されているのも特徴です。
これらのテーマは、その後の中国文学にも脈々と受け継がれていきます。
『文選』は、
奈良時代頃には日本に伝来し、
平安時代には貴族の教養の書となっていました。
文章のお手本となっただけでなく、
「経営」「国家」など、
現代にすっかり浸透している語も『文選』からの発祥なんだそうです。
こうしてみると、
『文選』が日本に与えた影響は、とても大きいといえますね。
参考文献
【元号「令和」の典拠について】シリーズの記事執筆に際し、以下の書籍を参考にいたしました。
プレミアムカラー 国語便覧
数研出版株式会社 2018年 (ISBN978-4-410-33912-7)
倫理用語集
山川出版社 2007年 (ISBN978-4-634-05213-0)
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