「天才」Kクンが教えてくれたこと。
高校時代通っていた塾に「天才」がいた。
Kクンである。
Kクンは、広島市内の有名進学校に通っていた。背が高く、頭の大きな男の子だった。
「ビッグヘッド」なんてあだ名がついてたっけ。
穏やかな気取らない性格で、剛毛ゆえの直らない寝癖をそのままにしてみんなに笑われても、少しはにかむぐらいで意に介さないような子だった。
ちなみに、私は彼と一度も口をきいたことはない。
Walking Dictionary、現る。
Kクンの天才ぶりが塾内で轟いたのは、高2のころだった。
塾内で定期的に単語テストが行われていたのだが、担当の先生が無茶ぶりをして、単語帳半分だか、一冊だったかを丸ごと範囲にしてしまったらしい。とはいえ、覚える期間はひと月ぐらいはあったんじゃないかな。
すると、Kクン、翌週には全部覚えてきて、
「まだやることありますか?」と先生にたずねたというのだ。
先生が口頭でテストすると、本当に試験範囲を全部覚えていたらしい。入試用の英単語帳一冊覚えといて、「まだありますか?」って。(笑)
今の私なら、ツッコミがちに「もうねぇよ。」って言うと思う。
八面六臂(はちめんろっぴ)な男。
入試科目において、Kクンに隙はなかったと思う。
小さな塾だったので、実力を問わず、高2の間は化学の講座、高3になってからは国公立志望クラスとして、同じクラスに放り込まれた。
一緒にいると、Kクンのすごさがわかる。
授業中先生が答えに少し自信がない時、Kクンにあてて間違いがないことを確認していたし、
塾内の確認テストも開始20分以内で解き切り、大きな頭を暇そうにもたげていた。
一緒になるクラスが複数あったが、どこでもKクンはそんな感じだったので、本当に天才だったんだと思う。
「天才」にもタイプがある。
ここまで、Kクンを「天才」と評してきたが、ナチュラルボーン「天才」かというと、そういうわけではなさそうだった。
いったいいつ勉強して、そんな高得点なのよ。と半ば呆れ気味のツッコミが入るような人をナチュラルボーン「天才」とすると、
Kクンはそういうタイプの天才じゃなかった。
ひとくちに「天才」とは言うが、タイプがあるのである。
傍目には自己完結しているように思われたので、Kクンが塾に来る意味がわからなかった。
「別に塾来なくても、一人でできるんじゃない?」と。
しかし、Kクンだって長い人生からすれば、当時はまだひよっこ。
まだまだ彼なりに努力したり、先生を頼ることがあったのだ。
幸か不幸か、一緒のクラスに放り込まれたことで、彼が人より時間は短いが、覚える時間を設けて覚えようとしている姿や、ハイレベルなんだろうが、わからないことがあれば先生に素直に質問する姿を目の当たりにした。
ひえぇ、天才も努力するんだ。
これは、今も忘れない衝撃である。
もともと勉強する能力が高い上、努力することも怠らないKクンは、いわば、「鬼に金棒」タイプの天才だったのである。
「天才なほもて努力を怠らず、いわんや凡人をや」
親鸞上人の「善人なほもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」をもじってみた。
この世に生まれて、全く努力しないで生涯を終えられる人なんていないんだなぁ。と思うとともに、
自分の「程(ほど)」に合った努力を続けていけば、それはそれでいつかすごいことになるんだろうなぁ。とKクンに教えられたのであった。
その後風のうわさで、Kクンは近隣県の国立大学医学部に進学したと聞いた。
今は、ベテランのお医者さんになっているんじゃないかな。ビッグヘッドが入る手術帽なんてあるんだろうか。と想像するとくすっと笑ってしまう。
いつまでも楽しい想像を許してくれるKクンに幸あれ!
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