古典文法を勉強するなら『枕草子』がオススメです
前回の記事で、「国公立理系志望者こそ古文を勉強するべき」との持論を展開いたしました。
比較的短時間で仕上がり、知識は漢文にも適用できるコスパのよい科目だからです。
それでは、具体的にはどのようにして古文を勉強したらよいのか。
今回は、品詞分解と敬語法をマスターするために「枕草子」の日記的章段を用いることをご提案します。
枕草子について
『枕草子(まくらのそうし)』は平安時代中期に清少納言(せい・しょうなごん)によって書かれた随筆(ずいひつ)です。
文学史的な知識としては、日本三大随筆のひとつとされていますね。
(ちなみに、ほかの二つは、鴨長明(かものちょうめい)の『方丈記(ほうじょうき)』と吉田兼好(よしだけんこう)の『徒然草(つれづれぐさ)』です)
清少納言のお父さんは、『後撰和歌集(ごせんわかしゅう)』の撰者で、「梨壺の五人」の一人として知られる清原元輔(きよはらのもとすけ)、ひいおじいさんは、『古今和歌集(こきんわかしゅう)』時代の名高い歌人である清原深養父(きよはらのふかやぶ)です。
こうなると、清少納言は、歌詠みのサラブレッドのようなイメージがありますが、実は彼女、歌は苦手でした。
和歌も詠むには詠んでいますが、残念ながらその評価は高くありません。
当時のレベルからしたら、お父さんやひいおじいさんと並び称されるほどの力量ではなかったのでしょうね。
歌は得意ではなかった清少納言ですが、文才には優れ、『枕草子』を残しました。
明るく知的好奇心に満ちた「をかし」の文学と評されています。
『枕草子』は、大きく三つのジャンルから構成されています。
ひとつめは類聚的章段(るいじゅうてきしょうだん)。
「ものづくし」などと呼ばれたりもします。「〜なもの」とテーマを定めて、それに関連するものを次々と挙げていきます。連想ゲームみたいにどんどん広がっていくと同時に、「そうきたか!」と思うような思いがけない切り口でテーマに関連させるあたりは、清少納言の鋭い感覚が読み取れます。
ふたつめは日記的章段。
清少納言は、28歳ごろに中宮定子(ちゅうぐう・ていし)の後宮に出仕しました。
中宮とは天皇から最も寵愛を受けている妃の呼び名と考えてもらえばいいと思います。
清少納言は、その宮中一華やかな場所の様子を書き留める使命を帯びていたともいえますね。
定子の素晴らしさや、定子や彼女を取り巻く貴族たちとの交流などが生き生きと描かれています。
みっつめは、随想的章段です。
「想い(おもい)に随う(したがう)」という名の通り、折に触れて思ったこと、感じたことを自由に書いています。
日記的章段は古典文法の勉強にピッタリ。
『枕草子』は三つのジャンルからできていると書きましたが、
古典文法、主に品詞分解や敬語法の勉強には、日記的章段がピッタリなんです。
清少納言が仕えたのが、中宮定子。彼女は、一条天皇の最愛のお妃でした。
定子の一家もそうそうたるメンバーです。
お父さんは関白藤原道隆(かんぱく・ふじわらのみちたか)
お兄さんが大納言藤原伊周(だいなごん・ふじわらのこれちか)
弟(にあたると記憶しています)が中納言藤原隆家(ちゅうなごん・ふじわらのたかいえ)
お母さんは宮仕えをしたことがある、才能豊かなバリバリのキャリアウーマンでした。
定子が一条天皇のお妃になったから。というのもありますが、そもそも家自体にも力がないと、お妃にはなれません。定子は生まれついてのスーパーお嬢様でした。
とにっかく、非の打ち所がないのです。
年下の主人なのですが、清少納言はすごく尊敬して仕えていたようです。
よって、日記的章段には、
中宮定子はもちろん、定子の実家の人たち(お父さん、兄弟)が登場しますし、
定子の夫である一条天皇も登場することがあります。また、定子のサロンは、宮中で最も華やかで洗練された文化的な場所でしたから、当時の有名な文化人たちも登場します。
清少納言は、こんなふうにセレブリティがわんさかいる場所に身を置き、そこでおこるエピソードを書き留めました。ゆえに、日記的章段には敬語法が多く用いられているのです。
「文は人をあらわす。」と言いますが、おそらく清少納言は、明るくてからっとした、ユーモア好きな人だったと思われます。ゆえに、その発する言葉(文章も含め)も同様に、簡潔で鋭いです。
つまり、「短い言葉で、ズバッとわかりやすく伝える」のが上手な人でした。
彼女の感覚は今でも十分通用するところがあり、古文なのですが、意外と読みやすいと思います。
現代語訳では味わえない世界があるんですよ。
枕草子の日記的章段を用いてマスターしてほしいこと
古文を読みこなすには、いくつかの文章を用いて、しっかり古典文法をマスターすることが必要です。
以下に、枕草子の日記的章段を用いてマスターしてほしいことを書いてみます。
品詞分解(特に用言の活用)
枕草子の日記的章段を用いて、まずは品詞分解を勉強します。
品詞分解といっても、国公立理系志望者は、「用言の活用が瞬時に把握できれ」ばいいので、
あまり細かくやる必要はありません。
動詞・形容詞・形容動詞と、助動詞の活用がパッとできるようになってください。
助動詞は、上の用言の活用形などによって、接続できるかどうかが決まりますので、
上下の関係性を見ながら、活用や活用形を判定していきます。
パズル的要素があるといえますね。
敬語法(二方面尊敬)
枕草子の日記的章段で特徴的なのは、二方面尊敬が多用されていることです。
これは当然ではあるのですが、清少納言から見れば、どのセレブリティも尊敬するべきだからです。
たとえセレブリティ同士に尊敬-被尊敬の関係性があったとしても、それぞれに敬意を表さねばなりません。
あるセレブリティの動作に謙譲語が含まれている場合、それは他に尊敬される人がいることがわかります。
また、そのセレブリティを下げてばかりもいられないので、尊敬の補助動詞を用いてその人を持ち上げます。
ある言葉を根拠に、その場にどういう身分の人がいるのか、何人いるのかなどがわかるので、推理ゲームやパズルのように感じる方も出てくると思います。
勉強に使ってほしい日記的章段を挙げてみる
さて、それでは古典文法をマスターするのにオススメの日記的章段を三つご紹介します。
いずれも、教科書や参考書などに載っているような、有名で手に入れやすい章段だと思います。
ちなみに、以下に示す段数は、三巻本(さんがんぼん)における段数です。
同じ文章でも、段数が違う場合がありますので、冒頭を少し書いておきます。
また、書き写すなら、一言一句間違いなく、正確に!という時代ではなかったので、
アレンジが加わっている場合があります。ゆえに、枕草子とはいっても、いくつかのバージョンが存在することになります。三巻本は、最もオリジナルに近いとされている底本です。
九八段 中納言殿まゐりたまひて…
「くらげの骨」のエピソードです。
百七九段 宮にはじめてまゐりたるころ…
清少納言が中宮定子のもとに仕え初めたころのエピソードです。
時系列としては、九八段よりも前になるでしょうね。
舌鋒鋭い清少納言にも、こんな初々しいころがあったなんて!とちょっと笑ってしまう章段です。
すごくおもしろいのですが、文章のボリュームがまぁまぁあるので、余裕がない方は飛ばしてください。
二九五段 大納言殿まゐりたまひて…
中宮定子の兄 大納言伊周、漢文レクチャーでナイトフィーバーする。
一条天皇(伊周の義弟にあたります)に漢文レクチャーをしていたら、熱が入りすぎてみ〜んな寝てしまうという事態に。しかし、その眠りを一気に覚ますアクシデントが。アクシデントの原因は何なのか。それは読んでのお楽しみです。
一章段だけでも効果はある
候補となる日記的章段は全部で六つあったのですが、いろいろ考えて三つに絞り込みました。
初めは、この三つを全部やりましょう。と言おうと思っていたのですが、
やり方を例示しようと思い、九八段をやってみたら、結構大変でした。
そこで、時間的余裕がない人は、せめて九八段だけでもやり、それを何回か繰り返してください。
一回やった問題でも、二回目スピーディに確実に解けるとは限りません。
同じ問題をやることで、文法問題を解くとき、どこに着目すればいいのか、何を調べればわかるのかなど、
いわゆる「解法のショートカット」が身についてきます。
速く、確実に文法事項を把握できれば、長く、難しそうな文章でも諦めずに読み通せるようになります。
古文で一番怖いのは、文章を読むことを諦めてしまうことです。
「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」って、名言がありますが、
まさにそのとおり。
古文読解に、点数がかかっている、将来がかかっていると思って、少しの間時間をとって、古典文法を勉強し、ねばり強さを手に入れましょう。
現在、九八段について、解説のための準備を進めています。
品詞分解や敬語法について、実際にやり方を示してみようと思っています。
また、ブログでの解説では限界があると思いますので、動画にての解説を行うことも考えているところです。
詳細が決定しましたら、またお知らせしますね。
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